3度目の遅刻

新しくオープンするお店の主要メンバーとしてついこないだ入社したベトナム人のMくん(27歳)

 

その彼に先週、解雇通告を行った

 

理由は度重なる遅刻

 

まずは入社初日とその次の日に続けて2度

 

たかが1~2分の遅刻だが、わが社はルールにとっても厳しい日系企業

 

理由がどうであれ、看過するわけにはいかない

 

それで、ベトナム人所長とわたしは彼を会議室に呼び出して叱責

 

もしもう一度同じことが起こったら、解雇する旨を告げた

 

面接時の評価が高かった分、残念としか言いようがない

 

でも、彼は店舗のアルバイトスタッフたちを管理教育するリーダー的な地位に就く人間

 

そんな人が、ルールを守ることにいい加減では話にならない

 

その後、しばらくは始業時間前に出社していたMくんだが、やはりその日はやってきた

 

3度目の遅刻である

 

今回は10分遅れの出社

 

理由は交通渋滞

 

しかし、ハノイの交通渋滞は日常茶飯事

 

しかも、他のメンバーは遅れずにちゃんと出社している

 

終わったな

 

1週間後、所長とわたしはMくんを会議室に呼んだ

 

ベトナム語で所長が、「呼び出された理由は分かってるよね」と聞いた

 

Mくんは要を得ない様子でクビを傾げた

 

3度目の遅刻から数日経っているので、“おとがめ無し”と思っていたのだろうか

 

そんな能天気なMくんに、わたしたちはその日をもって解雇する旨を伝えた

 

(※ベトナムでは試用期間中であれば、簡単に社員を退職させることができる)

 

それを聞いたMくんの顔色はみるみるうちに変わり、ついには両手でその顔を覆って、うつむいてしまった

 

恐らく、“遅刻ぐらいでクビになるわけがない”と高をくくっていたのであろう

 

しばし重苦しい沈黙が流れた

 

その後、彼は顔を上げ、うるんだ視線をわたしと所長に向けた

 

自らの不始末に関して謝罪の言葉を述べたMくん

 

さらに「もう二度と遅刻しませんので、もう一度だけチャンスを下さい」と頭を下げた

 

「そう来ると思った」 わたしは心の中でつぶやいた

 

でも、答えは当然「No!」だ

 

遅刻だけではない。仕事に対する彼のいい加減な態度は、他の分野でも見え隠れする

 

理由はなんでもいい。“切る” なら今が絶好のチャンス

 

経営陣の一人として、それを見逃すわけにはいかないとMくんに厳しい視線を向けるわたし

 

そして、首を横に振りながら、わたしが最後の一撃として言葉を発しようとしたその瞬間

 

隣に座っていた所長がこう言い放った

 

「よし、分かった」

 

ええっ?? 

 

「もう一度だけチャンスをやる」

 

呆気に取られているわたしをよそに、Mくんは所長に両手を合わせて感謝した

 

Mくんが部屋を出た直後、「ちょっと、どうしてあんなこと言うの?!」とわたしは所長に食ってかかった

 

「かわいそうだって思っちゃったんです。彼は結婚したばかりだって来たんで。同じ家族を養う立場にある男として、何とかしてやりたいって思ってつい・・」と縮こまる所長

 

頭の回転が速く、めっぽう気が強い所長の意外な一面

 

それはまた所長が多くの人に慕われる理由でもあり、わたしが彼を高く評価している理由の一つでもある

 

これでMくんは首の皮一枚でつながったわけだが・・

 

うーん

 

彼はまたやらかすと思うのはわたしだけだろうか?