食べる仕事

最近のアラフィフOLの仕事

 

それはもっぱら食べること

 

6月から投入する新メニューの試食だ

 

最初は「タダで旨い飯が食える」と喜んだが、現実はそんな甘いものではない

 

オーロラソースがべったりついた”寿司”を出されて「ええっ、勘弁してよ」と思ったことは1度や2度ではない

 

何度も何度も同じものを食べさせられたり

 

お腹が空いてもいないのに味見させられたり

 

しかし、これも仕事、拒否するわけにはいかない

 

メニュー開発だけではない

 

接客方法についてもあれこれ意見を求められる

 

しかし店の客の90%以上はベトナム人

 

日本人の感覚で判断するとツッコミどころ満載だが、果たしてどのまで質の高いサービスを提供するべきか

 

「お客様は神様」がベトナムでも通用するのだろうか??

 

そんなわたしの迷いを一気に吹き飛ばしてくれたのが、仕事上の相棒であるベトナム人所長からのこんな言葉だった

 

「そりゃベトナム人だって王様みたいに扱ってもらえれば嬉しいですよ。特にうちみたいに富裕層をターゲットにしている店にとっては料理以上に重要です」

 

なるほど。それならわたしがあれこれうるさく口出しする甲斐があるのかも

 

そもそもベトナム人だけでやらせておくとあっという間に手を抜いて、三流店になってしまう

 

「もちろん日本人が思う”質の高いサービス”とベトナム人が思う”質の高いサービス”は同じではありませんが、そこはお互い知恵を出し合いながら考えていきましょう。きっといいお店になりますよ」とベトナム人所長

 

相変わらず人を乗せるのがうまい!

 

確かにベトナム人だけでやっても、日本人だけでやっても、結局はどちらかに偏り過ぎてうまく行かない

 

せっかく奇跡のメンバーがそろったのだ、頭ごなしに否定せず色んなことに挑戦して行きたいと思う

 

 

五つ星シェフの感性

新規事業立ち上げに伴いわが社は3人のシェフを雇った

 

Hくんはその中の一人

 

面接では、モジモジして人とのコミュニケーションが苦手な一面をのぞかせていた

 

何度もあくびをしたり、頭をポリポリ掻いたり、携帯電話をチラチラ見たり

 

わたしも思わずため息をついたが、とりあえず採用したのは彼の経歴ゆえ

 

Hくんはハノイでも有名な5つ星ホテルのコールドキッチンシェフとして4年間働いた経験がある

 

面接の際、当時彼が作ったという料理の写真も見せてくれた

 

目の前にいる冴えない風貌の若者が手掛けたとは思えないほど見事な”作品”だ

 

こうして入社が決まったHくん

 

ある日「明日はぼくが皆にランチをご馳走しますので、お弁当はもって来ないでください」と社内に触れ回った

 

”5つ星シェフがランチをご馳走してくれる”

 

店舗スタッフだけでなく、20名近い総務部やソフト開発部の社員たちも色めき立った

 

さて、次の日の朝、Hくんは大きな透明の袋をまるでサンタクロースのように肩に背負って出社

 

袋からは何やら甘い香りがプンプンする

 

「暑いと溶けちゃうんで袋開きますね」とHくん

 

見るとそこにはチョコレートまみれのドーナツたちがひしめき合っていた!

 

別の容器には、これまたぎっしり詰まった甘そうなシュークリームたち!!

 

一抹の不安に駆られつつ、「きっとこれは食後のデザートだ」と自分に言い聞かせるわたし

 

もう一つのパックには何やら怪しげな色の”おまんじゅう”

 

いよいよ雲行きが怪しくなってきたが、「いやそんなはずはない。なんてったって5つ星シェフなんだから」と深くは考えないことに

 

さて、お昼ご飯の時間になって、Hくんから皆に”ランチ”が配られた

 

わたしの隣で”怪しげな色のおまんじゅう”にかぶりついた甘党の総務部副主任が「これ、おいしい!中にカスタードクリームが入ってますよ」

 

「何?!カスタードクリーム??じゃ、もしかしてこの緑は抹茶クリーム?そいでもって、この茶色いのはチョコレートか??」

 

ありえない!

 

ランチが全て”デザート”だなんて!!

 

そんなわたしの刺すような視線をよそに、無言で”ランチ”を配るHくん

 

シェフの手作りスイーツならともかく、どっかのパン屋で買ってきたとしか思えない代物たち

 

皆、微妙な面持ちで甘ったるいフワフワのお菓子を腹の中に詰め込んだ

 

 

5つ星シェフの感性は大丈夫か??

 

そう感じたのはわたしだけではなかったはず

 

あれから数カ月が経った

 

先日、コールドキッチンのシェフとしてHくんが手掛けた料理を試食させてもらった

 

その結果、”お菓子ランチ事件”が軽いトラウマになっていたわたしの不安は見事に吹き飛んだ

 

キッチンで働くHくんの姿は、面接の時とはまるで別人

 

堂々を胸を張り、キッチン補助のスタッフにテキパキと指示を出す姿にはアラフィフ女子でなくともキュンとくる

 

今後の活躍が実にたのしみである

 

【長編】ベトナムをなめんなよ!

先週金曜日の午後、急きょ店舗で使う備品の買い出しに行くことになった

 

大事な備品であるが故、本来ならベトナム人所長が運転する社用車に乗って社長が行くはずだった

 

しかし、前日の無理が祟って体調不良を訴える社長

 

そこで、社長補佐であるわたしに白羽の矢が立った

 

「一人で行けますよね?」と無邪気な口調で問う所長

 

無理である

 

社用車で連れて行ってくれとまでは言わない

 

でも、いくら片言のベトナム語が話せても、経理のことはチンプンカンプンなわたし

 

それでなくとも、”うちの会社は外資系だから、当局の目が厳しい”と嘆くベトナム人経理担当者の声を毎日聞いている

 

先日も、ベトナム人調理場担当者が大量の備品を買いに行った際、レッドインボイスの内容に問題があり会計コンサルティング会社を巻き込む大騒ぎになっていた

 

ベトナム人でもそうなのだから、外国人のわたしには荷が重すぎる

 

そこで、苦肉の策として急きょわたしのお供役に選ばれたのが、総務部のL

 

その日めでたく2か月の試用期間を終えたばかりの新人

 

”ちびまる子”をちょっとぽっちゃりさせたような23歳の女子

 

「頼りにはならないが、いないよりはマシだろう」

 

こうしてわたしとまる子は、旧市街にある問屋街へ行くこととなった

 

ただ買い物を済ませた後は、わたしもまる子も事務所には帰らず、中心地からさらに離れた店舗に向かう

 

店舗で事務仕事をしなければならないまる子は、会社のパソコンを黒い大きなリュックに入れて背負っている

 

まるでランドセルを背負った小学1年生だ

 

さて、タクシーに乗り込んで少し経ってから、運転手がおもむろにこう言った

 

「今から旧市街に行って買い物するとなると、帰りが大変だよ。タクシーが捕まらないかも知れないから、待っててあげようか?」

 

見ると時計の針は既に午後3時を回っている

 

これから問屋街まで行って買い物するのに1時間掛かるとして・・、なるほど、すでに渋滞が始まる時間帯だ

 

でも、”タクシーが捕まらない”ってのは大げさだろう

 

しかも、しつこいほど”親切な”申し出をする運転手に「何か良からぬ魂胆があるのでは?」と疑ったわたしはキッパリこう答えた

 

「買い物にどれだけの時間が掛かるか分からないんで、待っててもらわなくても大丈夫です」

 

さて、会社から30分ほどで問屋街に到着したわたしとまる子は、小雨が降り出す中、お目当ての商品を探してめぼしい店を1軒ずつ回った

 

中国のゼロコロナ対策で、中国からの流通がストップしているので、いい商品があってもなかなか数がそろわない

 

前回、社長と来た時も同様の状況だったので驚きはしないが、実に口惜しい

 

結局、何とか手に入れた商品は社長が最後まで購入を渋ったデザインのものだった

 

しかし社長も事情をよく理解しているので、「他を探せ」とは言わない

 

そして商品の支払い

 

金額は合計約8,000,000ドン(40,000円)

 

レッドインボイスを出すよう頼むと

 

「出せるけど、2~3日待っとくれ」と店主

 

まる子は太くて短いクビを傾げながら、わたしに「今日中じゃなくて大丈夫ですかね?」と聞いてきた

 

2~3日後に出してくれるのなら経理上問題ないはず

 

でも、本当に大丈夫なのか確証がない

 

結局、チンプンカンプンなので、会社の経理担当者に電話をし、店主と直接話してもらうことになった

 

「なんだ、電話で経理担当者に解決してもらえるなら、まる子なんか連れてこなくても良かった」

 

こうして何とか支払いを済ませ、商品はそのままバイクで店まで送るよう手配した

 

今度は店舗へ向かうため、まる子にいつも利用するタクシー会社に電話で車の手配をさせた

 

しかし、待てど暮らせど車が来ない

 

苦情を入れると、すでに帰宅ラッシュの時間になっており、配車が追い付かないとの答えが返ってきた

 

何だかいやな予感・・

 

仕方が無いので、わたしとまる子はたくさん走っているタクシーの一台を止めた

 

でも、行先を告げると運転手は顔をしかめてこう言った

 

「えっ、そんな遠くまで行くの?お断りだよ!」

 

その後、何度も何度も車を止めたが、行先を伝えられた運転手たちは一様に首を横に振った

 

「嫌だよ!あそこまで行く道はものすごく混むんだから」

 

「あきらめた方がいい。この時間帯、そこまで行ってくれるタクシーはいないよ」

 

そうこうしているうちに渋滞はどんどんひどくなっていく

 

旧市街は、ただでさえ一方通行が多くて道が狭い

 

そんな通りの隅っこで、まる子とわたしはしばし呆然と立ち尽くした

 

どのぐらい時間がたっただろう

 

あれだけたくさん走っていたタクシーもほとんどいなくなってしまった

 

たまに見つけたとしても、すでにお客さんを乗せている

 

それでもまる子はタクシーを止めようと必死に手を振った

 

短い手足をバタバタさせながらタクシーに駆け寄るその姿が妙にコミカルで思わずわたしの口元が緩んだ

 

こんな時、一人じゃなくて本当に良かった

 

道を通るタクシーに片っ端から無視さら、すっかり気を落としたまる子がわたしに近寄って来て「こんな時、どうしたらいいんでしょう?」と言った

 

それを外国人のわたしに聞くか?

 

「分かんないけど、お腹空いたね」

 

道端でパテを挟んだバインミーを売っている屋台を指さしながら「あそこで腹ごしらえしよう」とまる子の背中をポンポンとたたいた

 

「あいたたたたたた・・」と両手で腰を支えながら、お風呂場で使うプラスチックの小さな椅子にゆっくり腰を下ろすわたしと、”バインミーをおごってもらえる”と喜ぶ無邪気なまる子

 

なんてこった

 

バイクがひっきりなしに行き交う道路の隅っこで、排気ガスを思いっきり吸いながら、ぺったんこのパンをかじる羽目になるとは・・

 

さほどおいしくもないバインミーだが、丁度、帰宅ラッシュの時間なのでひっきりなしに客が来る

 

もちろん99%テイクアウト客

 

中には、見るからに外国人であるわたしが道端に座ってバインミーをかじる姿をまじまじと見つめる者もいた

 

隣に座っているまる子とおかしなベトナム語で話していたのが興味をそそったのかも知れない

 

時計を見ると、すでに午後6時を過ぎている

 

社長は「5時までには商品を店に届けてください」って言ってたけど、無理だな

 

別便のバイクで先に運んでもらったのがせめてもの救い

 

さて、バインミーで多少お腹の機嫌は直ったものの、根本的な問題はまだ解決されていない

 

ここからどうやって脱出するか

 

仕方がない、最終手段であるグラブバイクを呼んでみよう

 

我が社では、基本、外出の際はタクシーを利用することになっている

 

タクシーを利用せず、事故に遭った場合、会社は治療費を出してくれないのだ

 

それで、グラブを呼ぶ前、ベトナム人所長に電話をした

 

「どうしてもタクシーが見つからないから、グラブバイク呼ぶよ。何かあったら会社が責任取ってね」

 

電話の向こうの所長も「そうですよね。この時間、旧市街からここまでタクシーで来るのは無理だと思います」と言って承認

 

ああ、これでやっとここから抜け出せる

 

希望の光に照らされて、アプリを操作するわたし

 

しかし、その光は「申し訳ございません。運転手が見つかりません」というメッセージが現れた瞬間、虚しく消え去った

 

そんなわたし達の様子を遠目で見ていた男がいた

 

グラブのユニフォームを着ているが、本物のグラブ運転手かどうかは分からない

 

何せグラブのユニフォームは街のあちこちで販売されているのだから

 

30歳ぐらいの日に焼けた男は、わたし達に近寄って来てどこまで行きたいのか聞いてきた

 

行先を答えると「この時間帯じゃあタクシーどころか、バイクも捕まんないよ。だれも大渋滞の中、あんな遠くまで行きたくないからね」と言った

 

「なら仕方がない、どっかのカフェに入って渋滞が収まるまで時間をつぶすとするか」そんな思いがわたしの脳裏をよぎった

 

しかし、そんな考えを遮るように日焼け男はこう言った

 

「オレが乗っけてってやってもいいぜ」

 

えっ、マジ?

 

「ただし2人乗っけんだから、グラブアプリに出てる金額の倍もらうぜ」

 

2倍??こいつ、アホか?!

 

「2倍なんて、話にならない。第一、3人乗りなんて絶対にイヤ!」

 

既に、頭ん中においしそうなコーヒーが浮かんでいるわたしに怖いものはない

 

足元に付け込んで、ぼろ儲けしようとする輩を即座に撃退した

 

ただ、道端に立っているといろんな人が声を掛けてくる

 

「オレンジ買わないかい?」

 

「落花生のお菓子、いかがですか?」

 

そんな声に交じって、またもや別のバイクタクシーの声

 

「どこに行くんですか?」

 

今度は20代の青年だ

 

やはり運転手を含めた3人乗りを勧めてきたが、わたしは断固拒否

 

まる子はベトナム人なので、3人乗りに抵抗は無いようだが、わたしは目先の解決策だけでなく、それが招く結果をきちんと考えるよう訓練された標準的な日本人

 

この大渋滞の中、バランスを崩して転んだらどうなるかぐらい想像がつく

 

特に海外旅行保険が切れてローカル保険会社の補償しか受けられない今、無茶な行動は絶対に慎むべきなのだ

 

そもそも法律違反の3人乗りで怪我をしたなんて言ったら、会社が100%補償してくれるかも定かではない

 

どうしてそう思うのか?

 

それは我が社の社長も、わたしと同じ常識観念を持った日本人だから

 

こうして2人目のグラブが去った数分後、3人目のグラブがやって来た

 

やはり3人乗りを勧めてきたが、さっきの教訓からかまる子は強い口調で「3人乗りは絶対にダメ!この人は日本人なの。ベトナム人じゃないのよ。だから3人乗りは絶対にイヤって言ってるの!」

 

声のトーンから、わたしの頑固さに少々嫌気がさしているようだ

 

そんな状況を素早く察したのか、3人目のグラブ青年はこう言った

 

「じゃあ僕がもう一台友達のグラブバイクを呼びます。バイクが2台なら問題ないでしょう?」

 

なるほど、悪い話じゃない

 

でも値段は?アプリと同額か??

 

グラブ青年は少し考えてこう答えた

 

「プラス30,000ドンでどうですか?」

 

30,000ドン、つまり150円か・・

 

まあ、いいっか

 

どのみち交通費として後で清算できるのだし

 

こうして、わたしは「先に行ってください」と手を振るまる子を残して3人目のバイクにまたがった

 

ハノイの旧市街を通り抜ける冷たい夜風が妙に気持ちよかった

 

「安全運転で、ゆっくり走ってよ!」という言葉に、運転手は「はい、もちろんです!」と返してきたが、正直、安全運転のバイクタクシーなんて見たことがない

 

しかも走り始めて分かったことだが、彼のバイクにはミラーがついていない

 

渋滞の時、他のバイクと接触して危ないからと嫌がる運転手がいるとは聞いたが、まさか自分が乗ったバイクがそうだとは

 

気付くのが遅すぎた・・

 

それでも彼の運転テクニックは大したもので、大渋滞の中、車とバイクの間をスルスルとすり抜けていく

 

丁度今は交通安全週間の真っただ中

 

道端に公安警察が立っていたが、警察はグラブを大目に見ているのか?

 

通常は取り締まりの対象となるミラーなしバイクなのに、警察は完全スルーだった

 

ホッと一安心したのもつかの間、大通りの坂を上り切ったところで目にしたのは、今までほとんど見たことがないくらいの大渋滞

 

目が届く範囲まで車やバイクの赤いテールランプが道路の隅から隅までひしめいている

 

風の谷のナウシカ」で、大蟲が群れをなして風の谷を襲うシーンを見た時と同じ戦慄が走った

 

なるほど、4月30日の南部解放記念日から始まる大型連休前ともなれば、多くの人が故郷に帰る

 

しかもこの大通りは地方へ通じる大動脈

 

タクシーの運転手が拒否るのも無理はない

 

わたしを乗っけたグラブバイクの青年も「なんてこった」とため息を漏らした

 

それでも余分にもらえる30,000ドンのために、意を決したようだった

 

いや、そもそも彼はアプリで呼ばれたわけではない、30,000ドンどころか、全額彼のポケットに入るのでは??

 

まあ、そんなことはどうでもいい

 

とにかく無事にこの大渋滞を突破してくれれば、誰のポケットにいくら入ろうが知ったこっちゃない

 

思わずタンデムバーを握るわたしの手にも力が入る

 

車と車の間にはさまれ、他のバイクと何度も接触しそうになりながら、排気ガスに渦にまみれて進むこと30分

 

ようやく目的地のショッピングモールが見えたきた

 

モールへ向かう道は広々としていてもはや渋滞はない

 

わたしを乗せたミラーなしバイクは滑るように高架道路をくぐって目的地へ

 

「あそこで降ろして」とわたしが指さす方向にバイクを停めたグラブ青年

 

わたしは約束通り140,000ドン(約700円)を彼の手に渡した

 

「ああ、終わった」

 

美しく照らし出されるショッピングモールがまるで悪夢の終わりを祝福してくれているように思えた

 

そういえば、わたしがハノイで暮らし始めて今月でちょうど6年になる

 

最初の頃は途方に暮れることの連続だったが、ここでの生活にもすっかり慣れたせいか、最近は成すすべもなく呆然と立ち尽くすことなど全くと言っていいほど無かった

 

久しぶりに”堪能した”絶望感

 

ベトナムを舐めんなよ!」と一喝されたような気がした

 

上司の務め

いよいよ佳境を迎えた我が社の新規プロジェクト

 

昼夜を問わず、皆いそがしくあちこち飛び回っている

 

特にわたしと共に会社運営を任されているベトナム人所長は土日も関係なし

 

工事現場や業者のところにせっせと足を運ぶ毎日

 

今回のプロジェクトのために、日本から長期出張している社長も同様

 

わたしより一回り年上なのに、孫世代の所長と行動を共にし、精力的に陣頭指揮を執っている

 

そんな中、社長の補佐役であるわたしに与えられた任務はというと・・

 

会社での”お留守番”!

 

たまに食器の買い出しなどで、皆と一緒に外出することはあるが、わたしの主な守備位置はもっぱら事務所

 

もちろん、事務所での社内ミーティングにはガッツリ参加するので、そこで皆の仕事に色々と口出しもする

 

我が社のベトナム人スタッフは基本、目の前の作業をこなすことだけに集中しがちで計画性がない

 

おまけに仕事が雑なので毎回ツッコミどころ満載

 

まずこちらがおかしな点に気付いて、それを突き詰めていって初めてミスが発覚するということもよくある

 

仕事のやり方に対する考え方の違いから、ベトナム人スタッフ本人に”ミスをしている”という自覚がほとんど無いというケースも多々ある

 

ベトナム人はプライドが高いので人前で叱ってはならない」とよく言われるが、わたしは人前であろうが無かろうが、ダメなものはその場で”ダメ”とハッキリ言う

 

もちろん理由も説明するが、心から受け入れてもらえることは少ないし、そもそもそんなこと端から期待していない

 

”一日中、事務所でのんびり過ごしているくせに、ガミガミうるさいオバハンだ”と思われているのは承知の上

 

テレビドラマに出てくるような”厳しいが情に厚くて、部下から慕われる上司役”は、わが社の若きベトナム人所長に任せて、わたしはもっぱら”厳しいお目付け役”として皆から煙たがられている

 

実に光栄なことだ

 

でも、たまにそんな自分の役どころに辟易することもある

 

そんな時は、高層階にある事務所の大きな窓からスモッグでくすんだハノイの空を一人眺めている
 

「脱!甘いもの」宣言

先日、3か月ぶりに歯石取りに行ってきた

 

日系の歯医者さんなので、費用は1,600,000ドン(約8,000円)

 

新しくできたローカル歯医者で歯石取りをして、200,000ドン(約1,000円)も請求されたと大騒ぎしていたハウスメイトのベトナム人Puuには口が裂けても言えない

 

でも、日系はローカル歯医者なんかとは比べ物にならないくらい、丁寧な仕事をしてくれる

 

おまけにわたしが通っている歯医者さんはお口のマッサージまでしてくれる

 

エステ気分まで味わえて一石二鳥

 

ただ今回は小さな虫歯が2つ見つかった

 

歯医者さんは「様子を見て、大きくなるようなら削りましょう」と言った

 

もちろんそれでも構わないが、どうして虫歯ができてしまったのだろう

 

歯医者さんの勧めで、以前から歯間ブラシもフロスも使っている

 

夜寝る前はコンクールで仕上げをしている

 

「もしかして、甘いもの、お好きですか?」と若い歯科衛生士さんが聞いてきた

 

わたしは思わず顔をほころばせて、「はい、大好きです」と答えた

 

そんな子供ような様子に、歯科衛生士さんも笑みを浮かべながら「原因はきっとそれですよ」と言った

 

なるほど、その通りだと思う

 

ここしばらく、なぜか無性に甘いものが食べたくて、毎日、ドーナツやケーキ、チョコレートにプリンを立て続けに食べている

 

”甘いものを食べると虫歯になる”ということを、まるで我が身を挺して証明しているようなものだ

 

それにしても、我ながら実に愚かなことである

 

たくさんのお金を出して甘いものを買う

 

毎日欠かさず食べて虫歯になる

 

虫歯になったら、高額な治療費が掛かる

 

それだけではない

 

最近はちょっとお腹周りもプヨプヨしてきたぞ

 

よし、もう”甘いものの奴隷”になるのはやめよう

 

甘いものを全く口にしないというわけではないが、今までのように暇さえあればおいしそうなお菓子を探して”お取り寄せ”なんて生活とはおさらばだ

 

そう心に決めて家に帰ったわたしを待ち受けていたのはPuu

 

「ねえ、ケーキ注文しない?それともビアードパパのシュークリームがいい?」と早速、悪魔の誘いを仕掛けてきた

 

前途多難である

ハノイに独りぼっち

同居のベトナム人Puuが旅行に行ってしまった

 

2泊3日の旅行

 

行先はベトナム屈指の観光地フーコック島

 

ホテルは3つ星だが、ハノイからの往復航空券込みで何と2,000,000ドン(約10,000円)!!

 

たった数日間ではあるが、一人ハノイのマンションに取り残されたわたし

 

掃除や買い物だけでなく、デリバリーの手配やトラブル対応のすべてを彼女に頼って生きているわたしにとっては不安な数日間である