2021年の社内旅行

我が社の就業規則には「年に1回、会社は社員たちを旅行に連れて行く」とある

 

社長は「年2回にしよう!」と言ったが、とにかく就業規則に明記するのは1回ということで納得してもらった

 

このことからも分かる通り、わが社の社長はベトナム人社員たちとお出かけするのが大好き

 

しかも、平均年齢26歳の彼らと行動を共にしても疲れないようだ

 

ちなみにわたしは社長より15歳ほど若いが、彼らのパワーには到底ついていけない

 

だが、いくら就業規則に書いてあるとは言え、このコロナ禍の中、“皆で旅行へ行く”という雰囲気でもなく、2021年の旅行はナシという方向性で固まりつつあった。それが去年の年末のはなし

 

ところが、それをひっくり返したのがわが社の社長。日本への帰国を直後に控えていた社長は急に、「やっぱり旅行、行きたいよね!」

 

その一言ですべてが決まった。「強制じゃないから、行きたくない人は参加しなくて大丈夫。行きたい人達だけで行きましょう」ということに

 

早速、所長がベトナム北部の有名な観光地ハロン湾に行けるか調べてみたが、ハロン湾があるクワンニン省はコロナ感染者が後を絶たないハノイからの人流をストップさせているとのこと。当然、観光になど行けるはずがない

 

そこで苦労の末、所長が見つけ出してきたのが、ホアビン省の地味な観光地。ハノイから貸し切りマイクロバスで約1時間30分。片道4時間掛かるハロン湾と比べたら近場でわたし的には丁度いい

 

さて、出発当日は朝7時に事務所に集合。参加希望のベトナム人社員たち十数名は遅れることなく到着。わたしも日本人のプライドに掛けて遅れるわけにはいかない

 

「皆そろった?じゃあ、出発しよう!」と声を張り上げたわたし。そこへベトナム人所長が申し訳なさそうに一言、「あの、社長がまだ来られていません・・」

 

「えっ、社長が・・??」

 

その後、待てど暮らせど社長は来ない。連絡もない。もしかして、忘れてる??

 

いや、一番張り切っていたのだからそんなはずはない

 

それで、所長に電話してもらうと、「ごめん、ごめん!今から家出ます」と社長の慌てた声が漏れ聞こえてきた

 

どうやら前の日の晩、飲み過ぎて寝過ごしたようだ。社員の一部から、「日本人なのに・・」というささやきが。これにはさすがのわたしも聞こえないふりをするしかなかった

 

そんな微妙な雰囲気の中、始まった社内旅行だったが、バスの中でビンゴゲームが始まるとムードが一変。「今日は皆さんに迷惑かけちゃったんで、わたしのポケットマネーからも景品出します!」という社長の言葉がベトナム語に訳されるや否や車内は一気にヒートアップ

 

さて、ビンゴシートが配られ、社長がどんどん数字を読み上げて行くにつれ、あちこちで「リーチ」の声が上がった。数カ月前のビンゴゲームで高額賞金を手にしたわたしはというと、悲しきことにハズレばかり。隣に座っている所長(前回、最高賞金を手にした人物)も浮かない顔をしている

 

しかしそれから数分もしないうちに、わたしはリーチを連発!なんと、それまで調子が良かったベトナム人社員たちを一気に追い抜いて、ビンゴ!!最高高額賞金500,000ドン(約2,500円)をゲットしてしまったのだ

 

そうこうしている内にバスはホテルへ。一応5つ星とはなっていたが、日本でいう所の3つ星程度。プールもあったが、季節は秋。寒がりのわたしは当然パス。ビキニ姿で泳いでいた20代後半の女子社員にはあらゆる意味で称賛の意を禁じ得ない

 

その日の夕食は、ホテルの庭でのバーベキューパーティー。500,000ドン払えばホテルの人が肉や野菜を焼いてくれるというのでお願いすることに (でもバーベキューって、皆で焼くのが楽しいんじゃないかい??)

 

育ちのいい社長が、皆に高級ワインを振舞ったが、そんな飲み物には縁のないベトナム人社員たち。「ビールがいい」とか「ジュースが飲みたい」とか言い出す始末

 

ちなみにわたしはそもそもお酒が飲めない。一見、ものすごく強そうに見えるのだが、梅酒の中に入っている梅の実を食べただけで酔っ払ってしまう。だからわたしもジュースを飲んでいた

 

結局その日、ドロドロに疲れていたわたしは、ホテルの部屋へ戻るなりシャワーを浴びて爆睡。一方、女子社員たちは誰かの部屋に集まっておしゃべりに興じ、男性社員たちも誰かの部屋に集まってカードゲームをしたそうだ

 

噂によると、ビンゴゲームでは賞金をゲットできなかった所長だったが、夜中のカードゲームでは、昼間のビンゴゲームで賞金をゲットした社員たちから稼ぎまくったとか

 

次の日の朝は、まるで体育館のような“食堂”で朝食。その後、(ホテルの部屋で休みたかったが)女子社員たちに引っ張り出されて、これでもかというほど記念撮影をした。寒空の下、ボートに乗ったり、サイクリングした強者たちもいたようだ

 

そして数時間後に個室でランチ。「ぜんぜんお腹空いてない!」と皆文句を言ったがスケジュールの関係上仕方がない。「うるさい!食べたくない人は食べなくていい!」と言ったのに、皆、出された食べ物をきれいに平らげた

 

ランチの後、ベトナム人所長が一人で給仕をしてくれたホテルのスタッフに会社を代表して感謝の言葉を述べ、握手をし、社員たちに拍手をするよう求めた。「なんでこんなことしなくちゃいけないの??」と思った女子社員も少なからずいたようだが、そこまでした理由はズバリ、そのアオザイを着た女性がとても美しかったから

 

特に所長は彼女の名前だけでなく、電話番号も聞き出す始末。さらに驚いたのは、普段物静かでまじめなソフト開発者Hくんも同じようにアオザイ美女に絡んでデレデレしていたことだ。もちろん二人とも妻帯者である

 

こうして1泊2日の楽しい旅を終えたわたしたち。帰りのバスでは、社長と所長とわたしを除き、皆すっかり力尽きて眠り呆けてしまった。わたしたち3人はというと、次の社内旅行のことや、今後の会社の経営方針など、いろいろな話題で盛り上がっていた

 

いや、正確には、盛り上がっていたのは、社長と所長だけで、わたしは目を開けたまま眠っていた